2008-08-01掲載
先週あたりから出てきている
「エントロピー」ですが──
そもそもは熱力学の分野で、
分子の運動に関連して
見出された概念なんですね。
あ、それ知ってる! という方も
いらっしゃるかもしれません。
1865年に、クラウジウスという人が
考えたのだそうですよ。
これ以上低い温度はないという
最低温度のことを「絶対零度」と言いますが
ここから少しずつ温度を上げていくと、
それまでほとんど静止状態にあった分子が
温まってさまざまに動き始めます。
すばやく動くものもあるし
のろのろと遅い動きのものもあるし
それらが進む向きもばらばらです。
このように秩序なく
乱雑な状態になっていくことを
エントロピーの増大といい、
自然界は全体として
エントロピーが増大していく傾向にある
のだそうです。
したがって「エントロピー」とは
ランダム(乱雑)さの尺度と
考えることができます。
そこで、いよいよ今週は、
このエントロピーと量子とが、
なぜかつながってきますよ、というお話。
あ、いたいた、リョーシカ!
そういう話だったですよね?
量子のことを思いだそうとしてるんだけど
どういう話だったか
ねこの額の脳みそながら、
うまく読み出せないんですよ。
あれれ。
ええと、量子というのは、
今ここにあったからといって
たとえば1秒後にどこにいるかは
いろんな可能性があったんですよね。
(第12週を参照)
第12週より
そうですね。
非常に幅広い可能性を持った状態です。
でもって
存在そのものが確率的!
だったんですよね。
だんだん思いだしてきたぞ。
(
第13週
、
第34週
を参照)
そうです。
では、私たちは量子について
何も知ることはできないのかというと
そうではなくて、
私たちは「量子状態」について
知ることができる。
「量子状態」とは、
私たちがその系について知っている知識を
総合したものなんです。
うーん、だけど
「わかる」というのは
観測できるということでもあるから
そういえば、量子の場合
「測定」というのが
問題になるんですよね?
その通りですね。
では、あまり古典的な場合との違いにとらわれずに
量子の世界の中へ入って
そこで起こることを考えてみましょうか。
はい。
量子の基本的な状態は
「重ね合わせ状態」というものでした。
この物理系について
私たちはそれがどのような状態にあるのか、
知識を持っています。
ああでもない、こうでもないような
あるような、ですね?
(第16週を参照)
0と1が幾分かずつ含まれている「重ね合わせ状態」
0でもあり1でもあるという状態です。
そこでこの量子ビットを
0か1かを区別できる測定器で
測ってみましょう。
すると、0か1になりますね。
0かもしれないし、
1かもしれないですねえ。
はい。
さきほどの「重ね合わせ状態」とは違って、
この場合は、測定したのだから
必ず0か1のどちらかなのに
その結果を知らなければ、
どちらだかわかりません。
0と1が50%ずつの、
古典的な確率的現象になっているのです。
このような状態を「混合状態」と言うんですよ。
測定によって0または1のどちらかである「混合状態」
コイントスと同じですよね?
100円玉を投げて表か裏かを当てる時、
コインを持った手を開くまでは
どちらが上を向いているかわからない……。
はい。
このような不確かさの度合い、
つまり量子的な系に、どれだけ
古典的な混合状態が入り込んでいるかを
エントロピーという尺度によって
測ることができます。
この場合は
「確率が一様に分布していて
最も偏りなく分散した状態」
(第38週を参照)
だから、エントロピーが高そう。
そうですね。
一方、先に出てきた
「重ね合わせ状態」の場合は
0でもあり1でもあるという一定の状態
であることがわかっていました。
ですから、どういう状態にあるかわからない
という不確実性がないので、
エントロピーが低い状態にある
と考えることができます。
では来週は
エンタングルメントを測ってみましょうか。
ええっ!
エンタングルメント
!?
(つづく)
『週刊リョーシカ!』でも
これまで何度も登場した「量子状態」。
第4集「確率の考え方編」では
これまで親しんできた統計・確率の
考え方に関連して、
「エントロピー」の概念を使って
この「量子状態」を考えてみよう、
というわけなのです。
重ね合わせ状態というのは──
(ややこしいけれども)
どうなっているかがクリアにわかっている、
エントロピーが低い状態。
混合状態というのは──
古典的に状態が分散している、
エントロピーが高い状態。
というふうに、理解できるんですね。
で、来週はなぜか
「エンタングルメント(絡み合い)」
が登場しますよ。
ますますリョーシカ!な展開を
どうぞお楽しみに。
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