第12週:予測できない、おもしろさ。
2008-01-18掲載

マトリョーシカそっくりの理論物理学者・
「リョーシカ」が量子の世界をご紹介する
ウェブマガジン『週刊リョーシカ!』。
今年もいけいけゴーゴーと
毎週金曜更新中です。

さて前回は「量子元年」を予測しました。
とかく年頭というと、予測したりしますが
後で振り返ると、当たらなかったなあ~
あの株、流行、天気、景気、失せ物……。
というような予測も、まあ、多いですかね。

ところが、予測できないといえば、
量子もそうなんだそうです。
簡単に言ってしまうと、常に行方不明。

そこで今回は、このふしぎな量子の性質を、
探っていくことにいたしましょう。

わたし あ、いたいた! リョーシカ。
量子が「予測できない」って
いったいどういうことなんですか?

リョーシカ そうですねえ。では、逆に
予測ができるというのはどういうことなのか、
まずこれについて、考えてみましょうか。

わたし
はい。


リョーシカ さっそくですが、先週ちょうど
古典的な描像と量子的な描像の話をしました。
このように量子のことを考えるときには、
いつも古典的な場合と区別して
考える必要があります。

そこでまず古典的な場合ですが、
物の動きは、予測することができますね。

わたし
そうですね、予測しようと思えば。


リョーシカ たとえば飛行機が飛んでいく様子や、
蹴ったボールのようなものは
軌道を描いて飛んでいきますね。
この軌道というのは、時間的に
物がどう移動していくのか
その位置を連続的に表わしたものです。

軌道を求めるには、最初の地点がどこで、
どういう速さで進んでいるのかが
わかれば求めることができます。
この最初の条件を初期条件といいます。

ある初期条件でポイントAを出発した
ボールは、1分後にはポイントBにいます、
とわかるわけですね。

古典的な場合、運動する物質の軌道

わたし
それはまあ、ふつうはそうですよね。


リョーシカ はい。これが、予測可能ということですね。
もっとも現象というのは一般にもっと複雑ですから、
初期条件以外にもいろいろな情報が必要です。

飛行機ならば風向きなどの飛行条件とか、
ボールなら、空気抵抗や地面との摩擦などです。
こういった情報が十分に手に入ることで、
正確な予測ができるわけです。

わたし ところが量子となると……
違うわけですね、きっと。


リョーシカ はい。量子の場合は、一定時間後の
位置を予測することはできません。


わたし
できないって?


リョーシカ
わからないんです。私にも。


わたし リョーシカ!

量子だってさすがに消えちゃうわけないし、
やっぱりどこかにいるんでしょう?

リョーシカ
マト・リョーシカ!

まさに「どこかにいる」んです!

量子の場合、物の位置はどこかわからない

リョーシカ 図を見てみましょうか。
量子がポイントAにあったとします。
初期条件のようなものもわかっているとします。
では1分後には、どこにいるでしょう?

どこでもあり得るんです。
いろんな可能性が同時に起こっていて
どこ、と言うことはできないのです。

わたし 最初の位置がわかっていても、
○秒後にはどこにいるかわからない……。
それじゃ、いつだって行方不明じゃないですか。

あまりにもわからないことだらけで
なんか実際問題として、困るような気がするなあ。
……どうして量子は予測できないんですか?

リョーシカ それは「本質的に」予測できないからです。
ふつう私たちは、予想が外れたとき、
情報が不十分だったり、分析が不正確だったり
したせいだと考えます。

わたし そうそう、ありがちですよね。
それに計算が間違ってた、とかねえ。


リョーシカ そんなのは論外として、ムムム……。
量子の場合には、それらがすべて完全でも
予測できないんです。

わたし うーん……。
開き直っちゃうと、要するに
「量子は予測できないもの」なんですね。


リョーシカ そう。より正確に言えば
予測することに意味がないんです。

でも、量子をたくさん使って、
同じ条件で観測したら、
どういう確率で分布するか、
ということはわかります。

わたし
団体ならわかるけど、個人はわからない。


リョーシカ ええと、統計的にわかる
ということなんです。

ある点に現れる可能性は高く、
また別の点に現れる可能性は低い、
というように、それぞれの点について
出現する確率を知ることはできます。

量子というのは、そのように
「いろんなところに出現可能な状態にある」
ということなんです。

わたし うーん、量子って、ずいぶん
どこでもいいというような、
幅広~い状態で存在しているんですねえ。

リョーシカ その通りです。そのおかげで、
いろいろいいこともあるんですよ。


わたし・手 いいことって……
あ、マテ・リョーシカ!
(つづく)



週刊リョーシカ!
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いつも予測不能なものを相手に科学する。
量子の研究って、なんだか結構、
大変なシゴトのよーな。

しかし、今回は、
量子というのは、数をたくさん測れば
「統計的に」その位置を知ることができる

そして予測できる・できない
ということが重要なのではなくて、
いろんなところに出現可能であるような
幅広~い、豊富な状態にある
というお話でした。

ふしぎな量子の世界、この続きは、
また来週、金曜日にお届けします。
どうぞお楽しみに。

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