第17週:「デコヒーレンス」と申しまして。
2008-02-22掲載

さて、前回は「重ね合わせ」の話でした。
この「重ね合わせ状態」というのは
東と西、0と1というような
2つの区別できる状態を同時に併せ持つ、
量子にたいへん特徴的な性質である
という話でしたよ。

ところで量子を、大きさで言うと、
だいたい1ナノを切る小ささぐらい。
おっと、これはかなり以前の第6週
出てきたんでした。

そんな小さな量子の中に、
空間的にひろがるたくさんの状態から
どれか一つをとればいいという、
言うなれば“広さ”を持っているのが
量子の世界──と言えるわけなんですね。

そこで今回は、そのふしぎさと、
なんと、その豊富な世界がこわれちゃう
「デコヒーレンス」という現象について
採り上げてまいりますよ。

わたし
よいしょ、よいしょ。


リョーシカ
あれ、どうしたんですか?


重ね合わせ状態を考える「わたし」

わたし ほら、先週イメージが違うって
言われちゃったんで、
工夫してみてるんですよ。

重ね合わせ、ということは……と。

リョーシカ あの、重ね合わせに限らず、
量子の世界のことを絵にするのは
……まずできないです。

わたし あ、そういえば……
「絵にも描けない」んだった!


リョーシカ ですから、量子を考える時には
まずはイマジネーションを働かせて
考えてみることにしましょう。

たとえば──量子の世界って、
実はとっても壊れやすいんです。

わたし
え?


リョーシカ ふしぎで、豊富な性質は、
もうほんのちょっとしたことで
失われやすいんですよ。

ちなみにこのことを、
「デコヒーレンス」と言います。
量子的な状態が保たれている状態が、
そうでない状態へ変化してしまった、
そういう状態の変化を言うわけですね。

わたし
そうなんだ……。

でもまあ、いくら量子が
ミクロの世界での話だとしても、
そうふしぎなことが
あっちこっちに出現しても困りますもんね。

リョーシカ うーん……というよりも、
量子的な考え方は、
ミクロな世界だけにあてはまるのではなく、
私たちのこの世界全体を
包括的に説明するものです。

ただ残念ながら今のところは
あまり大きいものでは例がありません。
最近の話題としては超伝導素子の例などが、
大きいものになりますね。

わたし ふうん。
でも……しつこいようですが
「重ね合わせ」って
そんなに絵にならないですかね?
たとえばほら、二色を混ぜ合わせた飴とか。

リョーシカ それは、いくぶんかずつではないですよね。
1色目がこれくらいと、2色目がこれくらい、
というようにはっきりしていますし。

そうではなくて、
たとえば右回りのコマと左回りのコマ
などがそうです。
右に回っていると同時に左に回っているコマ
というのはたいへん想像しにくくありませんか?

量子的コマの重ね合わせ状態

わたし むむ、目が回るう!
どっちかにしてくださいよう!


リョーシカ そう言いたくなりますよね。
別の例では、コインの表と裏。

それからコンピュータを構成する1ビットは、
ご存知のように「0」と「1」で
情報を処理していきますが、
この0と1などもそうです。

わたし 0であると同時に1である、
ということですね。
ちなみに、0と1が重ね合わさっていると
いったいどういうことになるんですか?

リョーシカ いい質問ですね。
現在のコンピュータでそのようなことが起きたら
間違いなくエラーになるでしょうが、
将来的には、この量子ならではの豊富な性質を
いろいろな情報処理に活用できると思いますよ。

わたし なるほど! 量子計算ですね。
右回りと左回り、上方向と下方向。
こう考えていくと、いろいろ
重ね合わせられそうですね。

量子的メリーゴーランド!?
メリーゴーランドがもし量子的だったら、
右回りと左回りの重ね合わせ状態に。


わたし たとえば……
ヒラメであると同時にカレイである、
ネコであると同時にヒトである……。

リョーシカ 生きていると同時に死んでいる
というパラドックスもありますよ。
半死半生の猫の話です。

わたし
ネコ? なぬー、リョーシカ!


リョーシカ
詳しくは次回、お話ししましょうか。


(つづく)



週刊リョーシカ!
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ナノ以下という小さいなかに、
右回りと左回りの両方が
いくぶんかずつ含まれているという
ふしぎなポテンシャルを秘めた量子たち。

量子の世界を理解するには、
やっぱり想像力をどん!と
つぎ込むに限ります。

いや、そんなこと言ってられないんでした。
来週は「わたし」が「半死半生の猫」
になるかも、という大ピンチ!

シュレ猫が出たか」という方も
「なにそれ」という方も
ぜひ来週の記事でご確認くださいね。
さて、首を洗って、と。
また来週!


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