2008-02-08掲載
先週、リョーシカは、
量子の世界は「見ちゃダメ」と言って、
去っていきました。
「見ちゃダメ」と言えば、
思いだすのが、有名な昔ばなし「鶴の恩返し」。
正体を見られたからには、もう居られない
と、飛び去ってしまう鶴のお話です。
ついでに「開けちゃダメ」といえば、
浦島太郎が竜宮城から持ち帰った玉手箱、
それにパンドラの箱も……と考えてみると
「見ちゃダメ」な話って
古今東西を問わず、案外多いんですよね。
実は量子の「見ちゃダメ」も、
この “見たら一巻の終わり!”という、
同じ話なんだそうです。
というわけで、今週は、
見ちゃダメ、と言われると見たくなる
量子のふしぎな世界を、
さっそくのぞいてみることにいたしますよ。
量子の世界って、
見たら一巻の終わりなんですか?
そうですねえ。
見ると、
どうなってしまうんでしょうか?
それを考えるには、まず
「見る」とはどういうことか、
というところから考えてみましょうか。
はい。
まず「見る」というのは、具体的には
「測定」ということになります。
ああ、なるほど。そういえば
「不確定性原理」のとき(第13週)
にも
見るにはまず光をあてなくては、
見えない、測ることができない
という話がありました。
そうですね。「見る」というのは
まずは光をあて、はね返ってきたものを
まさに肉眼で「測定する」
ということなんです。
ところが、量子的な世界では
この
「測定」
ということが、
特別な意味を持ってくるんです。
というのはきっと……
ただ正確に測ればいい、
というわけじゃなさそう。
その通りです。
古典的な世界とは、
私たちがふだん見聞きしている現象の世界。
一方、量子の世界というのは、
量子的なルールが支配する世界ですね。
この量子的な世界では、
物質はさまざまな可能性を
併せ持った状態にあるのでした。
しかし、いったん測定を行うと、
量子の状態がどこにあるか、
その1点が決まることになります。
測定したんだから、
当然、結果が出てきますよね。
はい。ではその「測定値」は
一体何を表しているのか
というのが問題になるんです。
測定した結果、つまり
量子の状態を表しているんじゃないんですか?
そうですね。
では、
いつの
量子の状態でしょうか?
実はそこがとっても問題なんです。
量子の世界では、測定を行ったとたんに、
それまでの状態から、別の状態へ、
状態そのものが変化してしまう
ということが起こります。
すると……
測定前の状態はどうなるんですか?
永遠に失われてしまいます。
つまり「測定値」は、
測定前のありのままの状態ではなくて、
測ることで変化した、
新しい状態を表しているのです。
なるほど、量子の場合、
いったん測定を行ったら、
もう元の状態はない!──それが
「見たら一巻の終わり」なんですね。
でも……ちょっと待ってくださいよ
測ると変わってしまうなら、
それで本当に
測ったことになるんでしょうか?
たとえばオモテかウラかを測定して、
測定前はオモテだったのに
測定後はウラへ変化したら──
何かヘンじゃありませんか?
何かヘンというのは、その通りです。
測定というのは、
何かものさしになるものに照らして、
ひとつの値を得るという作業ですよね。
古典的な世界では、ひとつの測定値に
対応する物理的な状態はひとつです。
長さを測って1cmなら、
それに対応するのは1cmの長さの物です。
ところが量子の場合、
測ったらこの値だったという、
同じ結果が出る量子状態は
およそ無数にあるのです。
言い換えると、1つ1つの測定というのは
量子の世界をかいま見る、
窓のような役割を果たしていて、
その向こうには広大な量子の世界が
広がっている、と考えることもできますね。
ふーん。
では、このへんで。
おっと、
(つづく)
量子っていうのはこれです、
と写真や画面を見ることができれば
たいへんわかりやすいんですが
実は
第4週
で見てきたように、
それはムリ、ということでした。
じゃあ、量子を測定することによって、
量子の世界をのぞいてみよう、というのが
今週のお話だったのですが
量子の場合、「測定」によってなんと
状態そのものが変わってしまうという、
またまた新しい、
ふしぎな性質が登場しましたね。
「針の穴から天のぞく」
とよく似た意味のことわざに
「貝で海を測る」
というのがあるそうですが
量子の世界をのぞくって、まさにそんな感じ。
でも、この
「量子状態」
、量子を考える上で、
実は大切なポイントなんだそうですよ。
というわけで来週も引き続き、
このテーマを詳しく見ていくとしましょう。
どうぞおたのしみに。
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