2008-02-01掲載
量子の世界では、さまざまなふしぎな現象が
起こっていることが、知られています。
しかしそれを知るには、
ちょっと想像力が必要なようです。
というのも、なにしろこれ、
私たちが日常暮らしているぶんには、
決して見ることのない光景なのだそう。
身近な光景にたとえると、
人間が10メートルの建物を飛び越えたり
透明人間みたいに分厚い壁をすり抜けたり
といった例に相当するそうです。
というわけで、今回は
タネも仕掛けもないのですが、
どう考えても「ふしぎ!」な量子のふるまいを
ずしっとご紹介してまいりますよ。
量子の世界では、
ふだん見たこともないような現象が
いっぱいあるそうですねえ。
はい。それはもう確かです。
たとえば電子1つを
電子の持つエネルギーでは
飛び越えられない高さの箱に、
閉じこめてくとします。
はい。
それでも量子は、まるで箱がないかのように
箱の外へ出ていくことができます。
身近な光景にたとえると、
たとえば高い柵を巡らした中に
イヌを放し飼いにしておいたら
いなくなっていた、というようなこと?
はい、
「トンネル効果」
と呼ばれています。
箱の中だけに注目していると、
まさに消えたようになりますので
ずいぶん以前ですが、量子効果のひとつ
として、注目されました。
ということは、
消えたわけではないんですね。
そうですね、どこかへ行ったんですね。
行方不明。
はい。古典の場合のように
量子を捉えておくというのは難しいんです。
それ、ちょっと困りませんか?
そうですね、困るとも言うし、
おかげで、私たちの生活に
ずいぶん役に立っているとも言えます。
行方不明になってしまうようなものが
「役に立つ」んですか? それって、
もしかしてコロンブスの卵みたいなこと?
そうですね。
コンピュータは、二進法すなわち0と1で
計算を処理していきますが、
箱の中に電子がひとつ入っていれば1
入っていなかったら0として
計算を行うとします。そこで勝手に
電子が箱からいなくなってしまったら
たちまちエラーになってしまいます。
それって、相当まずいじゃないですか。
そうなんです。ですから
情報処理にとって量子的なものは厄介だ、
と最初は考えられていました。
一方で、コンピュータを構成している
半導体というものがありますね。
トンネル効果は、半導体を使った技術にとって
なくてはならないものでもあるんです。
へえー。ということは、
わたしはもう、毎日、
量子を使っているってことなんだ。
そう、私もです。
より詳しく言うと、コンピュータが
その内部で計算を行う際のスイッチに、
トンネル効果が活かされているんですよ。
ふうん。
ふしぎなことが役に立つものですね。
ふしぎといえば、超伝導の時に現れる
クーパーペア
と呼ばれる一組の電子が
同時にトンネルするといった現象も
確認されています。
量子の世界は、ふしぎなふるまいの宝庫
と言えるでしょう。
見てみたいなあ、顕微鏡とかで。
あ、ところが、見ちゃだめなんです。
え?
えーと、それは……
また来週ということで。
おお、ちょっと、
(つづく)
今回は、電子を箱の中に捉えて
おいても、勝手にいなくなってしまう
「トンネル効果」
というのが
出てきました。
ちょっと復習すると──
量子的な世界では、物質はいろんな可能性を
同時に併せ持った状態にある──
第13週
より
この「可能性」のひとつの例が
「トンネル効果」である、
とも考えられるわけなんですね。
(箱に入っていた酒まんじゅうが、
いつの間にかなくなっていた──
というのなら、よくありますが。)
というわけで、森を見ても、枝を見ても
ますますふしぎな量子の世界……。
来週はそんな世界を“のぞく”ことについて
考えようと思います。
──どうぞおたのしみに。
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