FILE: 003『ようこそ量子』の冒険 page2 量子暗号はなぜ安全なんですか?
私たちが日常的に利用している通信の背後で、セキュリティを担っているのが暗号技術。たとえばインターネットでは、1977年に開発されたRSA暗号と呼ばれる技術が広く使われ、私たちが日々利用する通信の背後で安全性を担っています。このRSA暗号は、現在のコンピュータが大きい数の因数分解を解くのが苦手なことを利用して、セキュリティを実現したもの。一方、通信環境が日々発展するなかで、今、絶対に破られないものとして注目を集めているのが「量子暗号」です。そして量子の原理的にセキュアな性質は、前ページでご紹介した「重ね合わせ状態」を特徴とする量子状態を理解することで、読み解くことができるんです。 聞く人:かえる@ようこそ量子LAB 答える人:香絵博士
現在のコンピュータで情報を担っているのは「ビット」ですが、これを「量子ビット」に乗せて1つずつ送信していくとしますね。すると、現在のコンピュータの場合、1ビットが「1」なら「1」にすぎないわけですが、量子ビットの場合は、その1つ1つが重ね合わせ状態になっており、これに情報を乗せて送信していくのが大きな特長です。 重ね合わせ状態だから、一つ一つが「0」でも「1」でもある状態だケロ。 はい。そして重ね合わせ状態に関連してもうひとつ重要なのが、量子ビットでは「0」「1」の間に広い空間があり、とり得る状態は球面状に広がっているという点です。したがって測定の際にも、これをどの向きで測定したかという点が大変重要な意味を持ってきます。下図の場合では、縦(NS)と横(EW)で示されているのが、測定の向きです。 『ようこそ量子(丸善)』より そして測定を行うことにより、重ね合わせ状態は「0」または「1」の状態へ変化してしまい、元には戻りません。 戻らなくても困らないケロ。 ところが誰かが通信経路に介入して、盗聴しようと試みたとします。盗聴者は、量子ビットを取得すると、これを測定して情報を得ようとしますね。すると盗聴したはいいけれども、量子状態を元へ戻すことはできませんから、通信経路に戻すのは、別の状態ということになってしまうんです。 そうすると、どうなるんだっケロ? 量子ビットの送信に続いて、通信を行う送り手と受け手の間で、別の通信経路を使って、お互いが測定に使用した「向き」の情報を交換します。この時にお互いの情報に一致しない点が見つかれば、これは怪しい、誰かが盗聴しているぞという証拠になるのです。このように量子が原理的に備えている性質を活用することにより、盗聴を未然に防ぐことができるという大きな長所が生まれます。量子によってこれまでの暗号技術とは異なる、高品位なセキュリティが実現できるのです。 量子暗号は、もう使えるのケロ? 現在、実証実験も成功し、実用化へ向けて開発が進んでいる量子暗号として「量子鍵配送BB-84」と呼ばれる技術が知られています。「量子鍵配送BB-84」は実用間近と言えると思いますよ。 |