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FILE: 003『ようこそ量子』の冒険 page1

質問重ね合わせ状態って何ですか?


下の絵は「だまし絵」として知られるものの一つで、女性の顔を描いたものです。絵の中央にある黒い部分が髪の毛──とここまではよいのですが、その下にあるのを"あごと耳"と見ると若い女性に、"鷲鼻と耳"と見ると老婆に見えます。みなさんはどちらに見えましたか? さて、"どちらに見えるだろうか?"と思って眺めるとどちらか一方の絵柄に見えてくる、このだまし絵が、量子の「重ね合わせ状態」をうまく体現しているんです。

だまし絵で重ね合わせ状態をイメージする
『ようこそ量子(丸善)』より
聞く人:かえるかえる@ようこそ量子LAB 答える人:香絵博士香絵博士

香絵博士この有名なだまし絵は『ようこそ量子(丸善)』にも掲載しています。


かえる第四章に出てくるケロ。


香絵博士はい。第三章から「量子状態」の話が登場し、ここからはいよいよ「量子の世界へ入り」、量子的なルールが通用する、すなわち古典的なルールが通用しない世界だと、わざわざ断っています。

かえるちょっと難しそうだケロ……。


香絵博士そこでまず私たちにとって身近な「古典的」な場合から整理していきましょう。現在、私たちが使っているコンピュータ、すなわち「古典的」コンピュータでは、「ビット(bit)」という単位で情報がやりとりされています。1ビットは「0」または「1」のいずれかの値をとり、これによって情報を記述していくわけですね。
この「ビット」に代わり、量子コンピュータで情報の担い手となるのが「量子ビット(qubit)」です。1量子ビットの基本的な「量子状態」は、「0」でも「1」でもある状態にあるのが特徴です。

かえる「0」でもいいケロ、「1」でもあるような、ないような……。


香絵博士ええと、「0」の成分と「1」の成分が、幾分かずつ重ね合わさった状態なんです。「重ね合わせ状態」といいます。

かえるだまし絵が出てくるところだケロ。


香絵博士はい。だまし絵は、一見しただけでは「若い女性」でも「老婆」でもある状態です。ところが"どちらに見えますか?"と質問された途端に、どちらかにしか見えなくなります。「若い女性」に見えた人に、実は「老婆」なんですよ、と教えてあげると、こんどはしばらく「老婆」にばかり見えませんか?

かえるほんと。最初はおばあさんに見えても、今度は若い女の人に見えるケロ。


香絵博士そう、同時に2つの顔は見えないでしょ。このだまし絵は、いわば顔の「重ね合わせ状態」にあり、老婆と若い女性のどちらでもある状態だと考えられるわけなんです。しかし「どちら?」と"測定"した途端に、そのどちらかに決まってしまう。このような状態は、1量子ビットの量子状態をよく体現しています。量子ビットの「重ね合わせ状態」でも、ひとたび"測定"して「0」か「1」かどちらかに決まってしまうと、元の状態には戻りません。

かえる測定すると元の量子状態には戻らないのケロ?


香絵博士はい。量子的な世界では、ひとたび測定を行うと、「0」なら「0」、「1」なら「1」という測定結果が示す状態へ、量子状態そのものが変化してしまうのです。したがって測定前の、元の状態を知ることはできません。しかしこの性質を活かせばいいこともあるんですよ。たとえば量子を使ったセキュリティの高い通信などにも、大いに期待がかかるところです。絶対安全な暗号──魅力的ではありませんか?