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FILE: 002『ようこそ量子』を読む page2

質問量子によって何が変わりますか?

根本香絵「もし、一方向にばかり風が吹いたり、とても無視できない強さの風が吹く場所があったら、その地域の人は他の人より早く空気の存在を発見できたのではないか」と香絵博士は言います。確かに木が風になびく現象を目にしたり、ピストンのように空気を利用した道具や機械に触れたりすることを通じて、"空気があること"は、いっそう具体的に想像できるようになるに違いありません。量子の場合も、特に今世紀に入ってから実験によって実際に量子を操作する科学技術が進歩を遂げ、その世界がぐっとリアルになってきました。そして"量子が入った技術"が、いよいよ人々の生活の中へと近づいてきているのです。

聞く人:かえるかえる@ようこそ量子LAB 答える人:香絵博士香絵博士

香絵博士量子という概念が登場するのは1900年なのですが、これによって何が変わったかというと、まず物理学です。量子の考え方は、絶対正しいと考えられてきたニュートンの物理学と相容れないものでしたので、20世紀の始まりとともに物理の世界は大論争に巻き込まれていきました。たとえば量子の考え方では古典物理学とは違い、ものは連続的にではなくとびとびに変化する、と考えます。
ではかえるさん、私たちが飛行機が飛んでいる様子を思い浮かべる時、それはコマ送りの様に飛んでいますか? それとも流れるように飛んでいますか?

かえる飛行機は流線型というくらいで、流れるように飛んでいくケロ。


香絵博士その流れるように飛んでいくというイメージは、ものが連続的にものが増減するイメージです。ギアのようにではなく、グラデーションのようにものは──距離でも、重さでも、速度でも──増えたり減ったりするのだと、私たちはなんとなく自然とイメージしているのです。そしてこれは古典物理学の考え方なんですね。

かえるなんとなくだケロ。


香絵博士ええ、"なんとなく"なだけに一層、古典物理学は私たちの考え方のなかにしっかりと根を張っていると言えるのです。一方、物理の世界では、20世紀を通じて、量子という新しい考え方による「量子力学」という学問が成立していきました。そして今世紀に入って、物理学に加え情報学、化学、数学、材料工学などの幅広い分野を包括する量子情報科学が急速に発展し、難易度の高かった量子的な原理の実証実験などが成功を収めます。それまで理論上だけでわかっていたことが次々と実証されていったんです。

かえる実験が成功するとホッとするケロ。


香絵博士新しい実験的な成果は、うまくいく・いかないというだけでなく、量子のふるまいがより具体的にイメージできるようになるなど、量子についての理解が深まる契機にもなりますね。さらに、このような成功の積み重ねから量子を使った技術の実用化への道も拓けていきます。たとえば量子は、原理的にセキュリティの高い通信を行うのに適しています。そこで量子を通信のインターフェースに活用したり、近い将来に"量子の入ったケータイ"などの機器が登場する可能性もあるんです。

かえる"量子の入ったケータイ"は使ってみたいケロ。


香絵博士私もです。そして今日の技術を支えている古典的な技術基準に代わって、量子的な原理に基礎づけられた技術がさらに一般化すれば、ちょうど物理学が古典から量子へと移行したように「量子技術」の時代が本格化すると考えられています。

かえるいよいよ量子の出番だケロ。


香絵博士はい。そのように幅広く量子的な原理が活用され、さまざまな機器やサービスのかたちで生活に溶け込んでいくようになれば、量子的な考え方も次第に広まり、人々の"当たり前"へと近づいていくものと考えられます。そのような文化的な基盤の上に、今は奇っ怪な量子の上にも"量子文化"と呼び得るものが花咲くのではないかと期待されるのです。