FILE: 002『ようこそ量子』を読む page1 そもそも量子って何ですか?
地理的な条件で、一つの方向になびいた不思議な形状に成長してしまった木というものが、世の中にはあるようですね。昨年はこのような木が発泡酒のコマーシャルにも登場して、話題になりました。そこで今回は"不思議な木"という身近なところから、さっそく「量子」を考えていくことにいたしましょう。 聞く人:かえる@ようこそ量子LAB 答える人:香絵博士 いつも一定の方向に風が吹いているので、風の流れる方向に沿って成長してしまった木というのがあるんだそうですが、見るとなんとも不思議ですよね……。でもこういった珍しい例に限らず、たとえば台風の時などに、目の前の木が大きく一方向に傾ぐのを私たちは目にすることがあります。実際、私は英国のウェールズに住んでいた頃に、歩いていて前へ進めないくらい強い風に遭ったことがありますよ。そうなるともう風というよりは、"何ものか"に当たってしまい、前へ進めないという感じでした。では、私たちが手で押してもびくともしないがっしりとした樹木が、一体何に押されて曲がってしまうんでしょうか? カンタンだよ、風だケロ。 風というものの実態はなんでしょうか? うーん、空気かな……わからないケロ。 そう、空気です。風というといかにも当たり前だけれども、私たちの目の前の何もないように見える空間には空気がある。その空気がものすごい力で木を押しているから、木は曲がっているわけです。空気があると思わなければ、何ににも押されていないのに木が曲がっているのは、どう考えてもおかしいでしょう? そうかもしれないケロ。 21世紀に生きる私たちは──子供を含めて──そこいらじゅうに空気があるということを知っていますから、目に見えなくても空気があるのは当たり前だと、ほとんど無意識に了解して生活しています。しかし今よりもずっと以前、つまり空気というものがあるのだと誰かが言い出して、その考えが広く受け容れられるようになるまでは、"見えないのにある"などという話はやはり強烈に理解しがたかったに違いありません。ちょうどこれと同じように、概念のように目に見えないものは、理解され、受け容れられていくのに時間がかかるだろうと思われるのです。 もしかして、量子も概念だケロ。 はい。量子の難しさというのは、要するに、新しい概念だからだと私は思います。新しいといってももう誕生から100年以上を経過しているのですが、それだけかけて「やっと」浸透してきたというのが、私たちが立っている現在という時点なのではないでしょうか。今後、量子操作を表現するややこしい式がこなれた説明に変わり、あるいは厳密な定義を学ばなくても概念のエッセンスが自然と感じられるようになれば、今はたいへん奇抜な概念も広く受け容れられ、人々の"当たり前"に変わっていくことでしょう。 それって、ずいぶん先の話のような気がするケロ。 でもたとえばもう100年もすれば、小学生でも、量子なんて当たり前というような概念になっているかもしれないですね。 |