ハイブリッドをうまく始めるには?
ハイブリッドは、ある意味でエンジニアリングの発想であり、物理を究めようとする一方でまず先に、ある機能やシステムを実現しようという目標がある点が特徴です。僕の場合は、先に超伝導回路の知識や経験があって、そこへダイヤモンドが加わりました。しかし、固体中のスピンの専門家と同程度ダイヤモンドを理解することはまずあり得ませんので、そこを目指しても仕方がありません。そこで目的に沿った必要な情報をいろんな人と議論しながら集めたり、取捨選択して勉強したりしていくわけですが……コツがあったら僕も教えてほしいです(笑)。
理解とアイデアを交換する
サクレーにいた時は、ダイヤモンドのスピンに詳しい人たちのいる部屋を訪問して、よく議論していました。実際、当初の青写真は今とは全然違うものでしたが、話をしたことからアイデアが生まれたり、自分の実験を見せて、こんなことが起こっていると解釈してもらったりしたことは、しょっちゅうありました。たとえば物質を冷やせばコヒーレンス時間は長くなりますが、ある実験でそれがどうしても1秒しか保てないのです。そこで聞いてみたところ、近くに共振器があることが原因であり、むしろ固体中のスピンでは、まだ誰も見たことのない現象であることがわかったんです。サイエンスって、往々にして、予期せぬところから道が拓けるものではないでしょうか。
(文:久保結丸・池谷瑠絵)
久保結丸研究員 プロフィール
沖縄科学技術大学院大学 量子ダイナミクスユニット研究員。専門はハイブリッド量子システム、量子固体デバイス、量子回路、ジョセフソン結合等。2004年筑波大学卒、ジョセフソン結合に関する論文で優秀博士論文賞受賞、工学博士(2009、物質・材料研究機構、筑波大学)。学振海外特別研究員、フランスのCEA (Atomic Energy and Alternative Energies Commission)サクレー研究員等を経て、2015年より現職、JSTさきがけ研究員兼任。沖縄は「母の故郷でもあるので馴染みのある土地です」という。名は「ゆいまる」と読む。現在自転車で通勤中。