今回の「ようこそ量子」は、昨月一橋講堂で行われた国際コンフェランス「第5回キュークリプト」(第5回量子暗号国際会議、5th International Conference on Quantum Cryptography、以下「QCrypt 2015」)のレポートをお届けします。英語で使われる26のアルファベットのうち、頻度0.095%と、2番目に最も使われない文字である「Q」は「Quantum」の「Q」。これにCryptography=暗号という語を組み合わせた「QCrypt」は、量子鍵配送をはじめ量子暗号関連の最先端研究成果が結集する、年次の国際コンフェランスです。2015年は東京で開催され、世界の量子研究拠点で最先端研究を推進する物理学者たちを中心に、世界中から24ヶ国・277人が参加しました。
第5回を数えた量子暗号国際会議
このコンフェランスは、量子情報研究の急速な発達をうけて、2011年からスタートしたもの。第1回はスイスのチューリッヒ工科大学(ETH Zurich)、第2回はシンガポール国立大学(NUS, National University of Singapore)、第3回はカナダのウォータールー大学(University of Waterloo)、そして昨年はフランスのTelecom ParisTechと、量子研究のメッカとして世界的にも有名な研究拠点を巡りながら、毎年開催場所を移して開催されています。キュークリプト宣言(QCrypt Charter)に基づく3つの委員会と開催地委員会(Local organizing committee)によって運営され、さながら国際的な量子暗号研究コミュニティの年次大会といったコンフェランスとして年々影響力を増しています。また学生と研究者、理論と実験、量子暗号のすべての側面に関わる最先端を結集し、量子暗号を巡る技術の「可能性と限界」を見極める機会とあって、会場ロビーにはノーベル物理学賞候補と目される人物の姿も多く見られました。
2015年は東京で、UQCCも同時開催
このような流れを受け継ぎ、去る2015年9月28日(月)〜10月2日の5日間にわたって、情報通信研究機構(NICT)、国立情報学研究所(NII)、電気通信大学主催でQCrypt 2015が、一橋講堂(東京都・千代田区)にて開催されました。また開催初日の28日には、5年ごとのNICTの研究成果を集大成する発表会「量子暗号・量子通信国際会議 2015(UQCC2015, Updating Quantum Cryptography and Communications 2015)も同時開催され、QCrypt開催地委員およびUQCCの運営委員としてNICTの佐々木雅英室長、根本香絵教授(NII)が、チェアを務めました。UQCCの企画・設営を担当したNICTの和久井健太郎主任研究員によれば「前回のUQCCでは、東京QKDネットワークのデモを行いました。あれから5年、これまでの成果をご覧いただこうと綿密な打合せを行い、半年前から準備してきました」と、開催スタッフ総ぐるみで、万端を尽くして迎えた当日。UQCCの壇上は「光」を印象づけるブルーの照明に彩られ、佐々木室長の司会の下に、QKDの歩みを記す記念碑的なライブ中継や講演が、次々に進行していきました。
量子技術の産業界、開催地の一般客への拡がり
一方、QCryptの恒例のひとつに、会場の隣室などに設けられる企業出展ブースがあります。量子情報分野は、特に2011年の商用量子コンピュータ登場のニュース以来、世界的に投資的な関心が集まっていますが、量子暗号は、われわれがより身近に直面するインターネット上のサイバー攻撃や、個人情報のセキュリティ確保といった現実的課題に、具体的な解決法をもたらす量子的な技術であり、ここに多くの企業が参加する理由があります。今回の東京開催では、10社が参加し、ランダム数発生器、光子検出器などの量子的な製品やソフトウェア、ミラーマウント等の実験機器を紹介しながら、ポスタープレゼンテーションを発表した研究者をはじめ多くのコンフェランス参加者と交流を深めていました。ところでQCryptのもう一つの恒例が、量子情報分野の世界的に著名な研究者が、一般の方に向けた講演を行う「パブリックレクチャー」です。9月28日に行われた東京でのパブリックレクチャーは、3ページで紹介します。