ジョセフソン効果から約50年
2つの超伝導体を1ナノメータぐらい近づけると、その隙間を越えて、電子対が一方の超伝導体から他方の超伝導体へ移動する「トンネル効果」が起こります。この構造を反転させた構造が、逆ジョセフソン効果(コヒーレント量子位相スリップ効果)です。超伝導体を近づけておいて、その間にごく細い線を置く。するとそこを磁束がトンネルする、つまり通り抜けます。ところでこの磁束量子は、物理学的に位相と関係が深いことが知られています。構造においてポジとネガの関係にあるジョセフソン効果と逆ジョセフソン効果は、そこをトンネルする電荷と位相も双対の関係になっているのです。ちなみに磁束はふつうは量子化されないのですが、超伝導のループの中にあると、とれる磁場の強さが離散的になることが知られています。ブライアン・ジョセフソン(Brian David Josephson, 1940- )がジョセフソン接合を理論的に見つけたのは50年以上も昔なのですが、以来、この逆もできるのではないかということは長く予想されていながら、なかなかできなかった。それを昨年、僕たちが初めて実験で捉えることができました。
万里の長城は壁か通路か?
中国に万里の長城という城壁の遺跡がありますが、敵を防ぐ障壁として建てられているけれども、通路にもなっていて往来できます。侵略する人には壁、守る人には通路という構造は、まさにジョセフソン効果・逆ジョセフソン効果そのものです。逆ジョセフソン効果では、通した細線の上に電子の通り道ができるけれども、磁束にとっては壁である。ジョセフソン効果では、磁束にとっては通り道でも、電子には壁になる。その壁を通り抜けるのがトンネル効果というわけです。なお実際の実験では、超伝導の「城壁」は、逆ジョセフソン接合を介してまるく閉じた構造になっています。
技術の根底を変える量子技術標準
ジョセフソン効果のこのような性質から、これを使って、電荷が測れることがわかります。実は現在、電圧はジョセフソン効果で測っており、これが電圧標準となっています。量子がいろいろと操作できるようになってくることによって、技術の根底にあるいろいろな量が、より精密に測れるようになりつつあるんですね。ちなみに抵抗にも「量子抵抗標準」というものがあり、これは量子ホール効果を使って測っています。ところが「電子電流標準」は、まだできていない。現在は、2本並べた電線に電流を流すと、2つの線の間に微妙な力がかかり、電線がたわんで動くので、この動いた距離を正確に測るという、かなり原始的な方法に拠っています。逆ジョセフソン効果を使うと、今度は電流を測ることができますから、量子電流標準がつくれるはずです。このようにして、いろんなことが期待されています。