量子情報の最先端をつたえる
Interview #004

水落憲和准教授 大阪大学
公開日:2013/01/15

【2】光を使ってどうするのか

すべての物質にはスピンがある

私の元々の専門はスピンなんですけれども、このスピン、実は世の中にある物質としては、ありふれたものなんですね。たとえばどんなに純度の高い結晶でも、熱力学的な要請から少数であっても必ず不純物や欠陥が存在し、それらの多くは電子スピンを持ちます。またすべての物質には原子核があって、多くの核もスピンを持っている。ちなみに電子スピンの分光学的な検出手法をESR(Electron Paramagnetic Resonance, 電子スピン共鳴)といい、核スピンの場合をNMR(Nuclear Magnetic Resonance, 核磁気共鳴)といいます。後者を画像化したものが医療に用いられているMRI(Magnetic Resonance Imaging, 核磁気共鳴画像法)ですね。

電子スピン1個1個は「見えるはずがない」?

高校や大学の授業で、高速で動き回っている電子を1個1個見ることはできないんだ……と教わりませんでしたか? あるいは不確定性原理の要請から必ず“ぼやけ”があり、はっきりとは見えないんだと。そのことから「電子が持つスピンが1個1個見えるのか?」と思われる方や、実際にできると聞いても違和感を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。ところが1989年、初めて単一分子の光検出が成功し、1990年代にはこの技術の延長線上で、単一分子が持つ1個のスピンが見られるようになります。当時私は学生で、授業でその事実を聞いたときは衝撃的で、ぜひそういう研究をしたいと思ったことを覚えています。1997年にNV中心の単一スピンがドイツのグループによって観測され、その後そのグループに共同研究を申し込んで私のNV中心の研究が始まりました。実際の実験装置でスピン1個1個を観測したときは……本当に感動しましたね。オングストロームレベル(1オングストローム= 0.1ナノメートル)の構造のNV中心を1個1個手に取るように見ることができる。(→#004図参照)しかも室温で見える!……「室温で見える」ということはつまり、超低温にするための大掛かりな装置を使わなくてもよいのです。また、先ほど述べたように非常に安定に存在するので、実験室の電源を全部落として、翌日再起動すると、なんとまた同じ1個を見ることができるのです。実際私たちは、目的とする1個のNV中心を何か月も続けて研究し、見失うことも壊すこともありませんでした。

量子の世界をのぞいてみよう
Welcome to the Quantum World #002

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