量子情報の最先端をつたえる
Interview #002

佐々木雅英室長 情報通信研究機構
公開日:2012/09/14

【2】光を使ってどうするのか

ノイズゼロでフォトンをつかまえろ!

晝馬輝夫社長(現会長)から私に出された宿題だと、私自身が考えているものがあって、それは「フォトンがいるのは可視域に限らない。より広い領域にひろがっているはずだ。それをつかまえろ」ということなんです。それも「たまたまつかまえたというのではだめで、フォトンが100個あるなら100個つかまえろ、ノイズゼロでつかまえろ」と。それはちょっと無茶だし、難題だと思うかもしれないけれども、一方で社長の言われることはいつも、ものすごく本質を言い当てているんですね。この他にもよく「これからあらゆる光をつかまえるという挑戦をしていくのだから、それなりの道具を用意しないとだめだ」と言われていたんですが、その時は、実は何を指しているのかよくわからなかった。ある時社長がもう少し具体的に言ってくれて「赤外の光をつかまえるならば、当然赤外用のレンズや赤外用の素子を用意しなければならないな」と。このへんまでは当たり前の話ですよね。「検出器の前に光が来ていない状態をつくるために、単にシャッターをつけただけの状態では、赤外にとって本当にシャッターを閉じた状態にはならないぞ」と。

社長の宿題に答えられているか?

そのうちだんだん光検出器の性能が上がり、長い波長の光が検出できるようになってきて、やっとシャッターから来るノイズの問題に突き当たり、「あ、社長が言っていたのはこれか」と気づきました。このようにして研究開発を続けてきて、光子を数えるというと昔はだいたい400〜800ナノメーターぐらいまでの範囲(波長)だったのが、今では1,700ナノメーターぐらいまでできるようになってきています。最近は「量子情報処理プロジェクト(FIRST)」に参加して、われわれの光検出器が量子の研究にも使ってもらえるようになってきました。今、先生方と、これを使った実際の量子の測定を始めていて、かなりいいデータが出てきています。ただ、社長が言われた宿題に答えるには、この先にまだ何ミクロンも、仕事は残っているんだけれども……。

光とは何なのかを考えていくために

まだできない、そこのところをどうするのかについては、ふつうはまあ、不可能じゃないか、と思っている人が多いと思います。けれども、いずれはできるんじゃないかなと、私は思っています。このあたりは社風というか、研究所の誰もが、できないとは絶対思わないんですよね(笑)。「できるんじゃないの?」と、まず簡単に1回トライしてみて、「ああだめか」と。「でもまあ、なんとかなるんじゃないか」って言ってみんなやり始める。どんな研究もそういう感じですね。光に関しては、みんなが「そんなものができるのか」という、そこをなんとかしようというのが、私たちの存在意義だと思っていますから。会社全体が、光を使ってどうするのか、光とは何なのかを、考えていくための活動なんですね。企業ですので応用研究などの価値観の定まった研究を行うのはもちろんですが、まだ価値観の定まっていない研究を行うのも当社の社会的役目であり、そこから新たな応用や製品も生まれてきているように思います。

量子の世界をのぞいてみよう
Welcome to the Quantum World #002

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