FILE: 006講演会レポート
『量子で変わるコンピュータと暮らし』 page2
ところで日本に現在ある学会(学協会)の数は、なんと1,600以上*にのぼるのだそうです。今回はなかでも歴史ある数学と物理の学会の共同開催だったわけですが、客席は残念ながら満席とはいきませんでした。しかし熱心に聴き入る姿が印象的で、講演後は学生さんや一般の方々から次々に質問が寄せられ、香絵博士の、最先端の現場からの鋭い回答に、会場の熱気が高まっていったのも印象的でした。 ※日本学術会議協力学術研究団体数(1,634団体)、2008年3月25日現在。 2008年3月22日「市民講演会」の様子 ──量子についての学問すなわち「量子力学」は、たくさんの物理学者がアイデアをしぼり、完成させた学問なのだ、ということがわかってきました。では、そんな膨大な体系の中から、最も大切で基本となる考え方として、私たちはまず、何に注目したらよいのでしょうか。香絵博士は、「量子状態」に注目します。 量子を理解するうえでキーワードとなるのは「量子状態」です。では、それはどのようなものか、古典的な場合とどう違うのか、少し詳しく見ていきましょう。古典の場合のビットに対応するものを量子の世界では「量子ビット」と言います。そして、その大きな特徴は「重ね合わせ状態」にあります。 ──でてきましたよ、量子特有の「重ね合わせ状態」。古典の時とは比べものにならない豊富な「状態」をとることができることを最大の特徴とする、量子の基本状態です。しかしこれが一体、何かの役に立つの? と話は進んでいきました。 現在セキュリティの高い通信が行えるものとして注目を集める「量子鍵配送」、たとえば量子を使ってこのようなことを行うことができます。ではもし量子ビットを2つ使ったらどうでしょうか。実は、2つ以上の場合、量子ビットは「エンタングルメント」と呼ばれる性質を持つ、いっそう豊富な状態を構成することができます。そしてこれによって、量子コンピュータをはじめさまざまな量子情報処理の可能性が広がってくるのです。 ──量子コンピュータと言えば、地球環境シミュレータのようなスーパーコンピュータをはるかにしのぎ、たった一台で、現在世界中にあるコンピュータ全部に匹敵するとも言われる驚くべきパワーを秘めた未来のコンピュータ──15年、20年後、もし本当に完成したら、一気に"量子の時代"がやってきそうですよね? 量子コンピュータを待つまでもなく、現在すでに、量子技術は私たちの暮らしに入り込んできています。外国の例ですが選挙の投票・集計に量子通信技術が用いられたり、その他にもたとえば私たちが毎日手にする携帯電話のようなものにセキュリティの高い量子の技術が活かされる可能性も、すぐそこまできているのです。──このように「量子情報科学」という観点から見ると、情報処理もこれまでとはまったく違った新しい可能性が拓けてくることがわかります。今までは不思議だなあ、と言わば外側から眺めていた量子の世界や、量子的な考え方も、今後いっそう身近になってくるのではないでしょうか。 |