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FILE: 004量子、ラジオに乗る page2

ホントかよー、と思ったのがですね。

ラジオの放送局というと、放送中は、出演者と司会者やアナウンサーが黒い箱の中に入って……というイメージがありますが、それはもう古いようです。密室どころか、日射しの降り注ぐアトリウムのように開放的で、かなり白い空間。そこへスタッフも何人か入って、出演者と一緒に軽く会議するような感じに座って収録していました。機材もみんなデジタル。最初はどうなるかと思われた船も、邦丸さんの舵取りで、いつの間にか"わからなくても大丈夫"という量子的ムードになってきましたよ。というわけで、いよいよ後半です。

●量子の奇妙さ・あいまいさをパワーとして活かす、量子コンピュータ
量子のこのようなあいまいで、自由度の高い性質は、これまではエラーの原因になると考えられていたのですが、これを活かして、むしろこの性質を中心に据えて、コンピュータをつくっていこうというのが量子コンピュータです。この量子コンピュータに対して、私たちは、現在のコンピュータを「古典的なコンピュータ」と呼んでいます。

邦丸さん:「ホントかよー、と思ったのがですね。僕が先生のほうへにじみでていく、という話。これ、ありえませんよね」

●量子の奇妙なふるまい「トンネル効果」と半導体
電子をあるところに閉じこめて出られないようにしておく。しかし量子的な考え方をすると、この壁から電子が染み出して、反対側へ出てくるということが起こります。これが、人が壁をすり抜ける風景ならば、私も見たことはありません。しかしたとえばナノテクと呼ばれるようなミクロな世界では、壁を通過して反対側のほうへにじみでていくということがあり得るんです。これはトンネル効果と呼ばれています。

ある程度小さくなると、このように量子的な、つまり信じられない動きというのが顕著になってきます。このような量子的な効果は、私たちの生活の中に、実はもう入ってきています。コンピュータの中でデバイスとして使われている技術は、このような量子的な効果を使ったものです。ただあいまいさが大きくなるとやはりエラーになってしまうので、量子的効果を使ってはいるが、うまく使える部分だけを使っているのです。

邦丸さん:「量子コンピュータで、世界はがらっと変わる?」

●量子コンピュータのある未来へ向けて
未来の量子コンピュータがどんな形をしているか──それはまだ誰にもわかりません。しかしそれが可能になるには、そもそもあの量子の奇妙なふるまいを、あいまいなままにコントロールできるようになる必要があります。すると、私たちの身近なところで役に立つ技術にいろいろと応用できる。たとえばより安全な通信などが行えるようになるのです。インターネットがより高いセキュリティで運用できるとか、「量子がはいったケイタイ」なんかも登場する可能性があります。しかもこれらの身近な技術は、決して未来の話ではなく、もうすぐそこまで来ているのです。

このように、これまでは古典的であった技術の基盤が、量子的なものへとまさに飛躍しようという始まりの時期、それが私たちの現在です。すでに私たちが日常的に使うさまざまなものに、量子が入ってきています。そして量子コンピュータが完成すれば、そのパワーはいったいどれだけ違うかと言えば、全世界にあるコンピュータを全部合わせた力を、指先に乗るようなチップ一枚に詰めることができる──量子コンピュータは、そういうパワーを秘めているのです。