FILE: 001『ようこそ量子』を大公開!page2 量子はどんなふうに不思議なの?
奇妙、ミステリー、常識はずれ……と呼ばれる量子。その性質は、21世紀初頭の私たちが当たり前と思っている物の性質や状態についての考え方をくつがえす、奇妙なリアリティに満ちています。しかし、ひとたび量子的な世界への扉が開かれれば、そこには圧倒的に自由度の高い豊富な世界が広がっており、ちょうどモノクロの画像がフルカラーになった時のように、もう古典へは戻れないといっても過言ではありません。 聞く人:かえる@ようこそ量子LAB 答える人:香絵博士
量子のふるまいには、まだよくわからないことがいくつもあります。比較的よく知られているのは、量子を箱の中に捉えておくといつのまにか外へ出ていなくなってしまう「トンネル効果」という現象。たとえば3メートルジャンプできる力を持った物体を壁に囲まれた中に入れておく。壁の高さは、4メートル。ではこの物体は壁を飛び越えることができるでしょうか? 4メートルは跳べないケロ? ところが量子的な世界では、この物体は4メートルの壁を飛び越えることができるのです。「3メートルジャンプできる力では、4メートルの壁は越えられない」と、誰もが思いますよね。でもそれは私たちがふつうに見ることができる"古典的"な世界での話。量子的な世界では、飛び越えるというよりは、するりと壁を通り、壁の向こう側へと抜け出てしまいます。 そんなの見たことないケロ? 私も見たことはありません(笑)。しかし同じ現実の世界で、やはり私たちが見ることのできない超ミクロな世界についてはどうでしょうか? たとえばコンピュータの中で情報処理を行っているCPU(中央情報処理装置)の内部では、捉えておいた電子がいつの間にかいなくなってしまう「トンネル効果」のような量子的な現象が起っています。現在のコンピュータはデジタル信号、すなわち「0」「1」を区別することで計算を行っており、たとえばある箱の中に電子が100個あれば「1」、電子が一つもなければ「0」というルールを決めて、情報を処理しているわけですね。しかしそこに量子的なふるまいが出現すると、さきほどの「トンネル効果」によって、さっきまで「1」だったはずが、勝手に「0」になってしまうということが起こるのです。 それはちょっと困ったことになるケロ? はい。このように、予測できない奇妙なふるまいをする量子は、情報処理システムにとって由々しきノイズであり、エラーを引き起こす張本人に他なりません。しかしミクロの世界では、こういった「量子効果」はさまざまなかたちで現われてきます。 予測できない量子で、コンピュータがつくれるんだケロ? 奇妙な量子を厄介者扱いせず、それどころか中心に据え、その性質を活用することでコンピュータが作れないか、というのが、量子コンピュータの最初の発想だったと言えるでしょう。しかしその実現は、まだ遙か未来に属する話になります。 その一方で、量子を使いこなす技術は、すでに私たちの生活の間近に迫ってきています。量子オフィスでも見てきたように、もし私たちが古典的な世界に立ち、量子的な世界への扉を開いたら、扉の向こう側には圧倒的に自由度が高い、豊富な世界が広がっていることでしょう。その豊富さは、ちょうどモノクロの画像がフルカラーになった時に似ています。カラーの豊富さは、私たちの視覚体験を変え、慣れてしまえばもう後戻りはできません。量子の豊富な世界を活かす技術の発達も、これと同じように次世代のイノベーションをリードしていくだろうと考えられているのです。 |