量子情報の最先端をつたえる
Interview #013

伊藤公平教授慶應義塾大学
公開日:2014/10/14

【2】ダイヤモンドで進化する量子計測技術

単一要素から成るきれいな材料

研究室では現在、ダイヤモンドという材料にも取り組んでいます。周期表でシリコンを探してみると、元素番号14。その真上がダイヤモンド、真下がゲルマニウムで、実はもっと以前、僕はゲルマニウムを研究していたんです。つまり上へ向かって研究を進めているだけ!(笑)3つに共通なのは、結晶格子が同じ形をしていること、そしてダイヤモンドは炭素、シリコンはケイ素というように、どれも1つだけのエレメントから出来ているから扱いやすいという特徴がありますね。シリコンと違ってダイヤモンドは、なんといっても常温でできるから、生体材料なども扱うことができます。だったら1個の電子で、ふつうのセンサーでは絶対できないようなセンシングをしてみよう、と。

「量子的に」測る技術の最先端

現在すでにMRIなどで医療に使われているNMR(→#004 page2参照)は、水素の核スピンの磁場を測る技術ですね。距離が離れれば離れるほど磁力が弱くなっていくから、近ければ近いほど微弱な磁場でも測ることができる。電子スピン1個だったら、測る対象のごく近くまで持っていって、これまで絶対測れなかったような弱い力が測れるわけです。ダイヤモンドの量子センサーで僕がおもしろいと思っているのは、なんでも測れちゃうということ。磁場を測るのはもちろんのこと、電場も測れるし、歪みも温度も測ることができます。そして問題は、これらをどうやってひとつひとつ量子力学的にコントロールすればいいか、どういうパルスシーケンスを使ってどういう操作をすることによって測れるのか、たぶんそういうもの全部の組み合わせなんですね。それを解明しよう。

ダイヤモンドを使って「点」で測る

測定するには、電子スピンを回転させ、回転速度の変化をみるという操作を行います。それ自体は、これまで培われたNMRのテクニックで実現可能なのですが、電子スピン1個で測るとなると、とにかく測定対象に近づけなければいけません。たとえば同じように微小な磁場の測定に使われている「SQUID(Superconducting quantum interference device 超伝導量子干渉素子)」も量子計測のひとつですが、SQUIDは面積の広い検知面を持っているため、ある程度遠くても測定できます。でもNV中心(→#004 page1参照)は「点」だから、すごく使いづらい。これを使いやすくするために、ダイヤモンドのなるべく表面近くに、電子スピンを置く必要があります。ところがそういう材料を作るのは、極めて難しい。しかし現在までに、表面から5ナノメートル、すなわちダイヤモンド原子50個ほどの極めて浅い場所に置くことに成功しています。

世界の様子をながめてみよう
Welcome to the Quantum World #013

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