あと10年から15年
われわれのセンターでは現在、3つの研究プログラムが進められています。ひとつは量子測定、そして量子操作、3つめは量子的に動くセンサー技術を、自然界には存在しない材料をシミュレーションによってつくり出すことです。では、量子コンピュータができるのはいつ頃になるのか?……というと、おそらくあと10年から15年ぐらいでしょう。われわれが現在手にしている技術からよりよい素子を導くことによって、短期的には5年から10年ぐらいで、量子的な情報システムを構築することができるでしょう。
量子的な現象を「見る」から「聞く」へ
──量子的な現象を捉えるのに、光を使いますね。というのも、われわれはものを見るためにふつう光を使うからです。しかしよくよく考えてみれば、「見る(see)」代わりに「聞く(listen)」のだって構わないわけですね?(根本)
あ、それはおもしろい。その考えは実に、力学的なセンサーが何をしているのかを理解するのに役立ちます。ふつうは光子を対象にして、光学的な移転を見ているわけですが、量子的な振動を文字通り「聞く」のだってよいのです。いや、まったくその通り。するとわれわれは「quantum LISTENING」に備えて、感度のよいマイクロフォンをつくらなければなりません。つまり現在の光検出器にあたるような、光子1個1個を音で数えられるようなものが必要になってきますね。
(文:ジェラルド・ミルバーン・池谷瑠絵 写真:水谷充 翻訳監修:根本香絵)
ジェラルド・ミルバーン教授プロフィール
Professor Gerard J. Milburn 豪州クイーンズランド大学教授、量子システム工学センター ディレクター。1982年、ニュージーランド ワイカト大学で、スクイーズド光と非破壊測定の研究により博士号を取得(理論物理学)。以来、手がけてきた分野は量子光学、量子測定、確率過程、原子光学、量子カオス、メゾスコピック物性、量子情報、量子コンピュータなど多岐にわたり、近年は量子ナノ力学系、超伝導量子ビット(QED)に注力。国際的な学術誌に優に200を越える論文を著し、物理学全体から見てもトップクラスの引用数がある。現在オーストラリア研究協会連合フェロー(クイーンズランド大学)、オーストラリア科学アカデミー、アメリカ物理学会会員。ミルバーン博士からも「Quantum computer will happen.」という言葉を聞いた。